「秋幸(あきゆき)」という主人公
中上の主要な作品の主人公に与えられた名「竹原秋幸」。私生児(しせいじ)として生まれ母フサの再婚によって竹原姓となる。実父は浜村龍造(はまむらりゅうぞう)と命名。複雑な血縁関係の中で、義父の土建請負業を手伝い、熊野の自然のなかで土方工事に汗を流す。自身の血の自覚と共に「岬」では異母妹との近親姦(きんしんかん)、「枯木灘(かれきなだ)」では異母弟殺人、「地の果(は)て 至上(しじょう)の時」では実父の自殺を目撃、というように、次々と悲劇を招き、「路地の解体」を目の当たりにして土地を去ってゆく。 「桜川(さくらがわ)」(「熊野集」所収)という短編に、「秋幸という私生児の物語」と規定したことばがある。 写真は、平成3年春の揮毫。唐の詩人王維の詩。現代語訳すると、「故郷からはるばるとやって来られた君よ、きっと故郷のことをよく御存じであろう。あちらを出立される時飾り窓のまえの寒梅は花を付けていただろうか、まだ蕾のままだったろうか」


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