踏切の自動化
東京から熊野へ、夜行寝台列車が走行していたころ、「夜の闇があけはじめると、そこが熊野だったというのは、なにかしら物深い。他郷の人には理解して頂けるかどうか分からないが、右手に山また山が続き、左手に海がつづくこの紀伊半島を廻る夜行列車は、そこで生れ育った私には現世から黄泉(よみ)へ、いや現(うつつ)から夢への旅をしている気になる。眠っていないわたしの耳に、信号機のケンケンケンという歪(ゆが)んで遠去かる音が、幻聴(げんちょう)のようにも思える。」と、中上健次は「熊野」というエッセイに書いている。

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