「万葉集」の「苦しくも」の歌
「苦しくもふりくる雨か神(みわ)の崎狭野(さの)の渡りにいへもあらなくに」―「せつなくも降ってくる雨よ。三輪の崎の佐野の渡し場に家もないことだのに」の意味。「万葉集」巻三に「長忌寸奥麿(ながのいみきおきまろ)」の歌として出ている。歌碑が「黒潮公園」内にある。「神」と書いて「みわ」と読む用法は、「神山」が「三輪山」と読まれるのと同じ。以来、三輪崎、佐野は、平安時代以降、「歌枕(うたまくら)」の地(古歌に読み込まれる諸国の名所)として、多くの和歌に詠(よ)まれることになる。 作者の長忌寸奥麿は、万葉集第二期の歌人で、大宝元(701)年に持統・文武両帝が紀伊へ行幸された折の歌が数首確認されているから、こちらまで足を伸ばしたとも考えられなくもない。

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