内装の飾りと春夫の意向
八角塔やバルコニー(のちにサンルーム)を持ち、アーチ型窓などで飾られたこのロマンチックで美しい和洋折衷の建物は大石七分の設計であるが、もともと絵画を得意とし、建築にも関心が深かった春夫は、自身そう述べているように、熱中して基本設計をしたようで、同郷で親しい西村伊作(当時文化学院長であり、建築家としても活躍中)にきちっとした実施設計を依頼した。そこで伊作は、自分の弟で建築設計にも明るい大石七分にも声を掛け、実施設計に当たったのではないか、と推察されている。随所に春夫の意向も取り入れられたものと見え、内装のデザイン用のスケッチが多く残されている。当時先端的であったウィリアムモリスの影響なども見て取れる。玄関のアーチ扉の小窓はマジック・ミラーで、外からは鏡、中からは透かし見える形態。入って西側にはステンドグラスの窓。東側の、書生室だったところは、いまは受付になっている。玄関ホールに洒落た細工の柱があるが、これは春夫が大工から鑿(のみ)などを借りて自分で細工したと、熊野から派遣された大工の証言が残っている。

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