沖野岩三郎(おきの・いわさぶろう)の作品「自転車」
沖野岩三郎の最初の刊行本『煉瓦(れんが)の雨』のなかに「自転車」という短編がある。春夫父子をモデルにしたもの。春夫が、中学での落第が決まった時、父は立腹して、愛用していた自転車を壊(こわ)してしまうという内容。当時、自転車は最高級品、新宮で最初に自転車を乗り回したのは、医師であった春夫の父豊太郎、その後医師松井南洋、春夫が買い与えられた頃も10数台あるかないかの時代、街中を乗り回していた。病院前の石段の人力車用斜面を滑(すべ)り降りるのが楽しかったと、春夫は後年回想している。


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