中上作品「帽子」に描かれた銭湯
写)「帽子」掲載の緑丘中学校の機関誌「みどりガ丘」

まだ、各家庭には風呂がない時代、各地に「銭湯」(ゼニを取って入浴させる湯屋からの名称)があり、時には風呂のある家に「貰(もら)い湯」をしに行った。新宮の町中にも、幾軒かの銭湯が存在し、「はまゆう湯」や「千鳥湯」などと名付けられていた。現在、新宮に2軒残る銭湯のひとつが「新宮湯」である。ここが、中上健次作品の端緒(たんしょ)を告げる場になった。「みどりケ丘」という中学校の校内雑誌に発表された木下健次の「帽子」という作品。風呂屋の番台に帽子を忘れてくる話。すでに文才をうかがわせている。1992年8月17日、銭湯の傍(そば)の野田の実家で営まれた告別式では、この作品が朗読された。それが縁で、「別冊文芸春秋」に紹介され、いまでは全集で読める。

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