旅館「茂乃井(しげのい)」―中上作品「枯木灘」のクライマックス
中上健次の代表作「枯木灘」で、主人公秋幸が、異母妹さと子を伴なって、実父浜村龍造(はまむらりゅうぞう)と対面する場が、「茂乃井」。秋幸はさと子との近親姦(きんしんかん)を告白して、許しを乞(こ)いたいという場面。龍造は平然として応対する。作品のひとつのクライマックス。 「茂乃井」は、スーパーまいど館前の現駐車場(別当屋敷町5110)にあった新宮を代表する和風旅館。1954(昭和29)年から1983(昭和58)年まで、下北山の人中谷博(1917-1988)が経営した。檀一雄も娘ふみらを連れて宿泊したこともあり、料理通の檀は厨房(ちゅうぼう)で料理などもした。そんな縁もあり、檀がソ連を訪れたとき、主人はじめ新宮の人も同行したことがある。 立地上、大王地にあっただけに、昭和48年7月、「茂乃井」で、「新宮太鼓」のお披露目会が開かれている。新宮検番組合が郷土芸能として新宮古来の歴史を折り込み創作されたもの、連日きれいどころが猛練習を重ねたと言う。

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