新宮の水力電気
写)登坂にあった新宮水力電気株式会社社屋

辻原登の小説『許されざる者』に登場する点灯屋の中森奈良之進は、「だれよりも早く森宮の朝をつかまえるのは中森であり、同様に、いちはやく夕闇がしのび寄る最初の一瞬を感知するのも彼である。」と、町の情報屋でもあるが、新宮の町に街灯がつくのは1899(明治32)年11月のこと。三重県の鮒田(ふなだ・現紀宝町)に、県下初と言われる50キロワットの水力発電所が完成し、熊野川を跨(また)いで、お城山に送電して、街中に配電された。登坂には新宮水力電気株式会社があった。電灯が灯(とも)ったからと言って「点灯屋」がすぐに廃業したわけではあるまい。大正期に建てられた伊佐田の西村伊作邸では、よく停電する電気に業(ごう)をにやして、各室にガス燈用の台が設(しつら)えられているほどだから。

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