中上健次の短編「浮島」
1978(昭和53)年に刊行された中上健次の短編集「化粧」のなかの一編に「浮島」がある(昭和50年8月「青春と読書」初出)。物語の導入部に「浮島の森と呼ばれる沼は、その新宮の四つの神社の真中にある。浮島の森から、目と鼻の先に、いつのころからか、遊廓がある。浮島の森には、大蛇に魅入(みい)られたおいのが、浮島の森の沼の底にひきずり込まれる伝説があるが、それに材を取った秋成の『雨月物語』蛇性の婬にあらわれたのは、蛇が女である。しかし元々は蛇は男である。ひき入られるのは、おいのだった。『おいのみたけりゃ、藺之戸(いのど)においで』と、伝説に歌がついているが、『悲しくばたずね来てみよ和泉なるー』とよく似た文句で、哀れである。その歌を、浮島の遊廓の女郎が、我が身のこととしてうたった・・・」とある。この短編は、野口冨士男の「なぎの葉考」へ呼応し、「なぎの葉考」は、最近の辻原登(つじはら・のぼる)の短編「天気」に呼応してゆく。

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