「新地(しんち)」の一寸亭(ちょっとてい)
中上健次が「芥川賞」を受賞した「岬」では、「いつのまにか、薄暮の新地にやって来ていた。川向うにあるパルプ工場のにおいがした。川から離れたこの新地に、そのにおいがすると、今日の夜にも雨になる。この土地の天気は、変りやすい。雨は禍々しかった。ろくな事はなかった。彼は、『弥生』の前に立った。」と描かれている。かっての新宮駅裏の呑(の)み屋街で「有楽町(ゆうらくちょう)」と言われていた地域。他の中上作品では、小料理屋の「モン」の店もあり、「紀伊物語」では「新地から路地は駅からの道を一本はさんですぐ」と位置づけられている。「路地」の中と外の情報が交差する場所として中上作品の重要トポス。呑み屋街がほとんど消滅した後も「一寸亭」の看板は、いまの碁会所の近くに長く残されていた。写真の小路左側に一寸亭はあった。

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