中学生であった佐藤春夫
佐藤春夫は「わんぱく時代」のなかで、中の様子を次のように描いている―「仲ノ町から本町の書店の脇に抜ける小路の入口の右の二階家に新聞雑誌縦覧所というものができたのも、同人誌「はまゆふ」の出たのとほぼ同じころであった。(略)/その二階家の階下の土間が縦覧所になって、平民新聞だの、その他社会主義の宣伝用パンフレットや、キリスト教の小新聞、反省雑誌からやっと改題して面目を一新しはじめたころの中央公論などを備え、単行本も木下尚江の小説「火の柱」「良人の自白」などの二、三冊が書棚に見え、壁にはローマ字でI・ニシムラとある西村伊作筆と思われる野の小川に月の出の月光の砕けながら流れている「せせらぎ」とでも題しそうな水彩画や、時には太く白い腕に花籠を抱いた空想的な西洋婦人像なども掲げられていた。西村伊作もまだ二十すぎの青年であったろう。」

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